【vol.4】

「ドラマ『上海タイフーン』は、どれだけリアル?」
上海に住む女性たちの間では、しばらくの間これが話題でした。「しょせんドラマ」「現実はもっと厳しいよ」「なにより、ピーター・ホーがいないし!」ドラマを楽しみつつも、そう言わせる理由は、彼女たちの上海ライフそれぞれに、語れるエピソードや想いがあるから。そんな話を聞きたくて、この街で働き、暮らす女性に会いました。
取材・文 / 浅香来



中国に来て初めてわかった日本の良さ。
ここで得た経験をもとに、同じ感覚を持てる仲間がほしい



 廣瀬美紗さん 神奈川県出身
※上海最後の日。大阪行きの外灘そばの船乗り場で

来る人もいれば、去る人もいる。

中国で働こうと来る人は、社会人経験が5,6年で30歳になる一歩手前の人が多い。今回ご紹介する廣瀬美紗さんは、ちょうどその逆のパターンにあたる人だ。大学卒業後、上海に語学留学して、そのまま就職。そして2010年万博で賑わう上海を後にして、帰国を決めた。上海歴は5年半になった。


日本での就職活動に違和感を感じて中国へ
経験のあったサービス業へ飛び込む


「大学では中国語専攻だったんですけど、中国大好きというわけではなかったんです。覚えやすい気がしたし、漢文も好きだったから。とりあえず、中国語や中国の文化でも勉強しようかと。高校のときに中国の学生と交流する機会があって、『SLAM DUNK』とかいろんな日本のことを知っていて驚いたんです。私は中国のことを何も知らないなあと」

入学する前は、中国マニアばかりでは?と懸念していた大学のクラスメイトに中国大好きという人は皆無。何も知らないはずの自分が一番中国好きな変わり者に見られていたそうだ。そんな環境に違和感を覚えつつも3年が過ぎ、就職活動が始まる。

「エントリーシートを書くときに、働く理由を書かないといけないじゃないですか。今も変わらず思うんですが“生活のため”としか思いつかないのに、会社が求める回答をしなければならないですよね。まるでクイズのようにしか思えない。一体これは何を書けばいいんだろうと考えてしまったんです。そんなことしてると自分の将来についても混乱してしまって。そんななか、せっかく中国語も勉強したし、もっとしゃべれるようになりたいというのもあって、留学しようと。周りは就職活動していて、卒業前に就職が決まってないのは私一人。内心相当あせりましたけどね」

在学中から始めたディズニーランドのアルバイトは、結局、留学準備期間まで含めると丸4年続け、それがひょんなところで中国の仕事にもつながった。
「友達に誘われたこともあったんですが、最初はディズニーの裏を見てやろうという好奇心ですね。ひねくれてるんですよ、私(笑)。当時からお客さんの中に、香港・台湾の人もいましたから、中国語を使って接客する機会もありましたね。じつはその間も、いい話があったらと就職活動を続けていて、興味を持った会社にメールを送ったりしていたんです」

「中国、サービス」で検索して見つけたその会社は、日系企業・中国ローカル企業の従業員研修を手掛けていたベンチャー企業。当時は上海に進出したばかりだった。中国語ができ、アルバイトではあるがサービスについて経験、そして何よりも仕事内容に意欲的な廣瀬さんに興味をもったそうだ。廣瀬さんも、上海で留学中も定期的に接点をもち、研修を見学したりしていた。中国語の能力をさらにレベルアップしたいという思いから、1年間の留学が終了した後で、その会社で働くことを決めた。


試行錯誤して中国でのニーズをつかむ
思い通りに仕事を回す楽しさも感じた4年目


中国人を対象とした日本式のサービス研修は、当時は中国では珍しかった。はじめは電話営業をしたり、雑誌に広告を掲載したりしたが、ぱっとした効果がでない。模索した結果、最終的にはお店の売上を増やす研修へ、中国人経営者にわかりやすい形のサービスへとシフト。

「日本式のサービス研修についていうと、引き合いは多いんですが、実際導入にまでは至らないんです。中国人がどこまで要求しているかというと、はっきり言って、日本人が求めるレベルまでは要求していない。企業もそれではお金を出さないんです。でも売上げが増える研修ならば出してくれる。そうこうしていると、日本ではどのようにお店が運営されているか実際の目で見たいというニーズがお客さんから上がってきて、日本の視察ツアーを企画したら、それがヒット。さらに、中国人経営者の中でうわさが飛び火して、中国全国各地のスタッフをツアーをまとめて日本に連れて行くことになったんです」

実際にツアーをしてみると、いろいろと問題が発生したが、それが新しいビジネスにつながった。

「サービス先進国の日本に来ているはずなのに、自分たち中国人が快適に過ごせないという声が上がってきたんです。銀聯カードが使えないとか、中国人があまり日本ではいい扱いを受けてないとか、中国語表示がないから電車にも乗れないとか。日本のラーメンが食べたいのに、ツアーでいくと安い中華料理屋に連れて行かれたり。ツアーに参加した中国人の不満の声を集めていたら、日本側も改善点を知りたいというニーズがあって、それが中国人向けのインバウンドの仕事になっていったんです。すごく意味のある、面白い仕事だったんです」

金融危機以降は、中国国内の仕事のほか、中国人向けインバウンドサービスのノウハウが提供できる点などが日本で注目を集め、ここ1年でやっとビジネスが上向きになっていた時に退職。最後の1年はニーズと手ごたえを感じながら仕事していたという。ではなぜ、今辞めるのか。


世界は広い!と文化の違いを感じて
今は日本がすごいと思う


「私が仕事を始めた当初は日本人中心の組織だったんですが、仕事の変化とともに現地化されていって、今はこのインバウンド対応の流れに合致して中国人中心になってきた。それがあるべき形だと思うし、それならば日本人の私はいらないかなと思ったんです。それと、中国に来てから5年が経過した頃から、なんか気持ちがいっぱいいっぱいになったんですよね。空気を抜いたらまた入るかもしれないんだけど、経験上、今は入らないかも、もうできないかも、と。あと、今更さらですが世界は広い!と実感したこともありますね、言葉として正しいかわからないですが(笑)。たとえば、日本人はあいさつするとき愛想笑いするけど、中国人にはその笑顔の意味がわからない。もしかしたらわかる日が来るかもと信じて日本人は毎日笑うけれども、たぶん中国人は一生理解できない。それに気がついたのが最近なんです。ああ、思っていたより文化は違う、これはもう変わらないんだ、と。それなら自分は今はいっぱいいっぱいなので、日本に帰って、同じ感覚を持てる自分の仲間がほしいなと」

上海で別の会社に転職するという考えは頭になかったそうだ。
「今年の4月に日本に仕事で帰った時、日本が楽しくて。私は上海に来てから写真を撮るようになったんですが、それまでは日本がきれいとかそこまで思わなかったんです。でも日本に戻ってファインダーを通して見たらすごくきれいで。どこでもシャッターが切りたくなるんですよね。で、そのあと上海に戻ってみると何も撮りたいものがない。すべてが作り物にしか見えなくて。そうしたら突然面白くなくなっちゃったんですよね。日本が美しすぎて、すごく感動したんですよ。日本は仕事が煩雑だとか、将来的にも見通しが暗いとかあるんですけど、やっぱり、日本すごいや、って(笑)」

最後に、4年半中国で働いた経験を通して、中国で働くことについて、期待していいことと期待してはいけないことを聞いてみた。
「中国で働くなら、日本で、うまくいかなかったから中国に来るっていうのはやめたほうが思いますね。中国は甘くない、中国人は馬鹿じゃないから。自分は仕事ができるからこっちに来るというのでないと、とてもじゃないけど生きていけない、死んじゃう(笑)。覚悟を決めて来たらいいと思います。日本は空気を読む“あうんの呼吸”という文化でコミュニケーションは成立するけれど、中国に限らずだと思いますが、言葉はちゃんと伝えるために使うのが大事で、そこは私は鍛えられたと思います。今までより確実に、自分のしゃべること、アウトプットについてコントロールできるようになりましたね。あと、期待していいことは、日本を好きになれることですね!(笑)」

日本に帰ってから、どうするかは未定だという。今は中国に戻ってくることは考えられないが、やはり自分の強みは中国での経験。いずれは、中国に関係する仕事につくだろうなと漠然と考えているそうだ。帰国時は、記念ということで、二日間かけて上海から船で日本に戻るという。何もすることがない船の中で、この5年半の中国生活をどう整理して、次のスタートを切ろうとイメージするのだろうか。生き生きと二ヶ国語を操り、頭の回転の速い彼女のこと、放っておいては企業が損をすると思うのだが、本人は「日本人なんだから、日本好きだよね!?って友達に聞いて、また変わり者と思われそう(笑)」とくったくがない。
(取材・文/浅香来)


ありがとうございました


廣瀬さんの上海ライフ一問一答Q&A
Q 上海での余暇はどんなふうに過ごしていましたか?
宅女(※中国語で、オタク、ネット中毒の女の子の意味??)です(笑)。ツイッターしたり、ネットしたり。晴れたら街を散歩したりしてましたね。
Q どんな家に住んでいましたか?
徐家匯駅近くの1DKです。90年代に建てられた18階建てアパートの7階で、バスタブがあるんです。これは上海になかなかないので私的にかなりポイント高かったんですよね。猫3匹と一緒に、結局4年住みました。
Q 上海のおすすめスポットは?
斜土路×打浦路にあるカメラ市場。(星光撮影機材城という名前の建物)カメラが趣味なので、いろんなものがあって楽しいですよ。あとは復興路×襄陽路にある中古電化製品市場。電化製品が好きなんです。
Q 上海生活、今までで一番のピンチは?
盲腸をこじらせて、腹膜炎になったこと。上海で就職したばかりの頃、おなかが痛くなったのでてっきり風邪をひいたと思っていたんですけど、どうも様子がおかしくて。変だなあと思いつつ、こちらの病院にかかるのは嫌だと思って無理して日本に帰って、翌日病院に行こうと思っていたら、もう我慢できないほどお腹が痛くなってきて、救急車。即、手術ということになって、結局1カ月入院しました(笑)。
Q 上海でのおすすめレストラン、ごはんは?
湖南料理の 【滴水洞】とかタイ料理 の 【Thai House】
スパイシーなものが好きなんです。


(取材・文 / 浅香来
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